レイジングスピリッツは、東京ディズニーシー開園4年目の2005年7月21日にオープン。
東京ディズニーリゾート初の360°ループのあるジェットコースターとして話題にもなりました。
また、この年はアメリカ・アナハイムのディズニーランド開園50周年の節目の年でもありました。
ストーリー
中央アメリカで2柱の古代神を祀っていた遺跡が見つかりました。現地の発掘チームは、神の石像が『向かい合わせに置かれていた』と推測して復元を進めていました。
一方、発掘現場を離れて壁画や古代文字を調べていた解読チーム。
研究の結果、石像を『向かい合わせにしてはならない』と書かれていたことがわかります。
間違いに気づいて、慌てて発掘現場に戻る解読チーム。ところが時すでに遅し。発掘現場では、超常現象が起きていました。
驚愕した調査隊は発掘現場から逃げ去り、無人となった遺跡では炎と水蒸気が立ち上り、レールが捻じ曲げられたまま。
勇敢なゲストたちはホッパーカーに乗り込み、遺跡を見学することになります。
怒れる神々
レイジングスピリッツ"RAGING SPIRITS"とは、『怒れる神々』という意味です。
この遺跡では、かつて2体の神が祀られていました。一方は火の神・イクチュラコアトル、もう一方は水の神・アクトゥリクトゥリといいます。
それぞれの名前はナワトル語*1で、イクチュラコアトルがCóatl(ヘビ)、アクトゥリクトゥリがCuhtli(鳥)の姿をした神のようです。ですが、どの石像がイクチュラコアトルとアクトゥリクトゥリなのでしょうか。
アクトゥリクトゥリはどれ?
待ち列の途中にある研究室には、遺跡のスケッチがいくつか残されています。
それによると、360度ループしているレールのそばにあるトサカのついた石像がアクトゥリクトゥリのようです。
さらに、復元する際の注意点として
"Remember Head Faces West"
『石像の頭を西にするのを忘れるな!』
というメモ書きも。
アクトゥリクトゥリは、もともとホッパーカー乗り場のある神殿側を向いていたのです。
ちなみに、アクトゥリクトゥリの石像のサイズもスケッチに記されています。それによると、
・全 長;42′-3″
…(42フィート3インチ=約12メートル)
・頭 部;13′-0″
…(13フィート0インチ=約4.1メートル)
・トサカ; 4′-7″
…( 4フィート7インチ=約1.3メートル)
なんだとか。復元作業もひと苦労だったでしょう。
イクチュラコアトルはどっち?
では、水のアクトゥリクトゥリと対になる火のイクチュラコアトルはどこにあるのでしょうか。遺跡正面に見える扇形の顔は、アクトゥリクトゥリと向かい合わせになっていませんよね。
実際にも非公式ガイドブックなどでは、扇形の顔の下に吊るされている石像をイクチュラコアトルと紹介しているものもあります。
ですが、研究室のスケッチを見てみると、遺跡正面の扇形の顔が描かれているものがあります。
"I Would Swear The Eyes Have Changed Their Position!"
『本当に(扇形の石像の)目が動くのを見たんだ!嘘なんかじゃない!』
とイラスト付きで必死の走り書きが。現在は斜視のようになっていますが、以前は違っていたようです。
別の発掘メモには、
"DYNOMITE ACCIDENT (IN JAN)"
『1月にダイナマイト事故を起こした』
とも書かれています。それへの無言の抗議なのかもしれません。
実際に乗るとわかるのですが、よく見ると扇形の石像の裏にも顔があります。
しっかりとアクトゥリクトゥリと向かい合わせに復元されていましたね。
ちなみに、こちらもサイズがスケッチにメモされており、
・扇部分;12′- 4″
…(12フィート4インチ =約3.7メートル)
・顔部分;10′-11″
…(10フィート11インチ=約3.1メートル)
意外にも、アクトゥリクトゥリのほうが大きいのですね。
こうしていろいろと検証してきましたが、レイジングスピリッツの看板が何よりの証拠なんですけどね。
パリから東京へ
実は、このレイジングスピリッツにはベースとなったアトラクションがあります。
それはディズニーランド・パリの"Indiana Jones et le Temple du Péril『インディ・ジョーンズ 危難の魔宮』"。
1984年公開『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』の作中のトロッコチェイスをコンセプトにしており、作中に登場したインドの『パンコット遺跡』をモチーフにしたオリエンタルなデザインとなっています。
しかし計画段階では、屋内型のアトラクションを建設する予定でした。
『ジャングルクルーズ』も参考にしつつ、インディがトロッコでジャングルを駆け抜けるものだったとか。
では、なぜ実現しなかったのでしょうか?
その原因は、ディズニーランドパリの厳しい財政事情にあります。
ディズニーランドパリの憂鬱
当時のディズニー社長マイケル・アイズナーは、芸術の都・パリに作るからには「史上最高品質のディズニーランドにする」と意気込んで膨大な予算をかけました。
さらに、観光客がヨーロッパ各国から訪れることを見越してオフィシャルホテルを7つ(計5500室)も用意。
大きな期待を受けて1992年4月にオープンしたディズニーランドパリ(当時はユーロディズニー)。
オープン直後こそ入園客で賑わいをみせましたが、園内の食事・買い物に消極的なフランスの国民性もあって、なかなか売り上げが伸びませんでした。
それどころか天候不順や欧州通貨危機の影響で、ホテルにも空室が目立つように。
利益を上げられないのに人件費はかさむばかり。開業1年を待たずして従業員のリストラを行うほどの不振に悩みます。
1年目の業績は20億 ₣ (約360億円)の赤字。未だに赤字に苦しみ続けており、2016年には過去最悪の損失8億5800万€(約1000億円)を記録してしまいます。
東京ディズニーリゾートと違い、ディズニー本社が直接運営しているディズニーランドパリ。赤字の埋め合わせは本社がするほかありません。
この大失敗で銀行の信頼を裏切ってしまい、融資もうまく降りません。
また、ディズニー・ルネッサンスも終焉を迎えたことで本業のアニメーション事業も苦しくなり、アトラクションにかける予算はもはやありませんでした。
そこで、
・規模を大幅に縮小
・屋外型のアトラクションに変更
・納期短縮のため既存のコースターを流用
…スイスのインタミン社の設計によるもの。
・オーディオアニマトロニクス*3はなし
と、創意工夫で乗り切るしかなかったのです。
その甲斐?あってか、ディズニーパークのアトラクション史上最速の工期9ヶ月で完成にこぎつけ、1993年7月30日にオープン。
2000年にはリニューアルが行われ、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのハリウッド・ザ・ドリームコースターのように『後ろ向き走行』も選べました。
ですが、2004年には前向き走行に戻っています。
発掘不参加のインディ
この『危難の魔宮』が東京ディズニーシーにも導入されるにあたって、いくつかローカライズが行われました。
1.遺跡のデザイン
ロストリバーデルタは、中央アメリカのジャングルをモチーフにしたテーマポート。
デザインはメキシコに栄えたマヤ文明やアステカ文明をモチーフとしたものに変更された…はずですが、特徴的なイクチュラコアトルの像はとあるディズニー作品とよく似ているような…
それは、『ラマになった王様』です。
2000年12月15日公開の『裸の王様』を原案としたミュージカル・コメディ作品。南米のとある国の王様・クスコ(CV・藤原竜也)が、傲慢な性格が恨みを買ってラマの姿に変えられてしまい、人の心を知っていく…という『美女と野獣』タイプのストーリーとなっています。
レイジングスピリッツの『ラマになった王様』へのオマージュの極め付けはこちら。 クスコの住む宮殿の外見は、模様に至るまでイクチュラコアトルの石像とそっくりです。
2.アトラクションにまつわるストーリー
ロストリバーデルタには、開園当初から既にインディ・ジョーンズ®・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮があります。
レイジングスピリッツにもインディを登場させてしまうと、キャラクターが被って紛らわしくなってしまいます。
ロストリバーデルタはマーメイドラグーンのように、キャラクターありきのテーマポートではありませんものね。
これを避けるために、レイジングスピリッツにまつわるオリジナルストーリーが生み出されたのです。
石像、ニューヨークへ行く
レイジングスピリッツがオープンしてから1年後の2006年9月4日。アメリカンウォーターフロントに新たなアトラクション、『タワー・オブ・テラー』がオープンしました。
詳しくはこちらの記事へどうぞ↓
この恐怖のホテルは、オーナーであり収集家のハリソン・ハイタワー3世が1899年に謎の失踪を遂げてから廃墟となっていました。
しかし、このたびニューヨーク市保存協会主催によるツアーが開催されることに。
実は、ホテルハイタワーのロビーに飾られている壁画に、レイジングスピリッツの遺跡が描かれているのです。
壁画でのハイタワー3世一行は、原住民に投げ槍で追われてこそいるものの、遺跡からは炎も水蒸気も上がっている様子がありません。
石像を奪われたら、神の怒りに触れそうなものですが…
他にもハイタワー3世の痕跡が残されています。
それは、ファストパス発券所のほか、ロストリバーデルタのあちこちで見ることのできる木箱です。
ホテルハイタワーの住所が記されています。ニューヨークへ輸送するコレクションが入っているのでしょうか。
ディズニー・マジック
ウォルト・ディズニーの手掛けた最後のアトラクション、『カリブの海賊』。ウォルトは、WEDエンタープライズのイマジニアにこう言いました。
ゲストが一度に見られないほどのものを置きなさい。 そうすれば、ゲストは何度でもここに戻ってくるよ。
このウォルトの教えは、今でもディズニーテーマパークに息づいています。アトラクションに乗ってからはもちろん、乗るまでの待ち列にもたくさんのストーリーがあるのです。
さて、待ち時間も楽しくなるような、ディズニーがアトラクションに隠したストーリーの魔法をいくつかご紹介します。
研究室に潜む○○?
こちらも待ち列の途中で見ることのできる研究室。
まじまじと見たことはなくても、ラジオから流れてくる陽気な音楽を耳にされた方も多いのではないでしょうか。
研究室内には、先述のように石像のスケッチや遺跡の復元資料が描かれた調査メモが吊るされていますが、ついさっきまで研究していたかのよう。
実は、この研究室には隠れグーフィーが。
さらに、中央の机の壁にかけられた懐中時計は、7時17分で時間が止まっています。
レイジングスピリッツがオープンしたのは、カリフォルニアのディズニーランドが1955年7月17日に開園してから50周年の節目ですが…
熱帯雨林に棲息する生き物が研究室に迷い込んでしまったみたい!この写真の中にも、3匹のうち2匹が写っているのですが…
探してみてくださいね!
ムシキング…?
不届者たちへ①
Qラインの途中で、無残に投げ捨てられている石像。
じつはこれ、もともとは他に9体あったんだとか。
ただ、探してみても1体しか見当たりませんね。その理由は、研究室に貼られたメモにあります。
石像のスケッチとともに、金額も書かれています。不届者の研究者が勝手に売り払おうとしていたみたい…
不届者たちへ②
TO:
TRADER JAQUES
BEAU DU MER ANCHORAGE
MARTINIQUE MARTINIQUE宛先:
貿易商人 ジャック
美しい海の係留地
マルティニーク島
ロコソ峡谷採石場
実は、この遺跡の発掘はとある会社の全面バックアップで行われていたようです。
ゲストの乗り込むホッパーカーは、本来砕いた石を輸送するトロッコとして使われているものです。
実際にトロッコを見てみると…
"CANTERA DEL BARRANCA ROCOSO"とトロッコの正面に描かれています。
これはスペイン語で、ロコソ峡谷採石場。
また、かつてストーリーペーパーとして配られていた"EL RIO PERDIDO HERALD"『ロストリバーデルタ新聞』にも、ロコソ峡谷採石場のマークが。
スポンサーをしていたのでしょうか。
木箱に入ったものとは…?
ロストリバーデルタでは、あちらこちらで木箱を見ることができます。ホテルハイタワー宛の他には、こんなものも。
右端の箱に入っているのは、"EXPLOSIVE"『爆発物』。遺跡の発掘に使うのか、はたまた採石場に運ぶために置かれているのかもしれません。
コウモリ3兄弟
待ち列の天井のどこかに、3匹のコウモリが。上を見上げて、どこにいるか探してみてください。
火と水の儀式
東京ディズニーリゾート公式ホームページに、かつて『調査報告』と題され、ある興味深い記事が掲載されていました。
この場所は古代、神をまつる儀式を行う場所だったことが、発掘調査でわかってきました。
そこで行われていた儀式とは、選ばれた一名の“志願者”に、火と水と蒸気が吹き荒れる中をくぐり抜けさせるという試練を課す、たいへん危険なもの。この儀式を行わないと、火の神“イクチュラコアトル”は激しい日照りと火山の噴火をもたらし、水の神“アクトゥリクトゥリ”はハリケーンや洪水を引き起こしたと伝えられています。
待ち列で見ることのできる壁画には、神々の怒りにおののくひとびとが描かれています。
ロストリバーデルタは、1880年代にこの地を襲ったハリケーンによってジャングルが切り開かれて発見された古代遺跡群というストーリーがあります。
またロストリバーデルタからも、頻繁に噴火するプロメテウス火山を望むことができます。
ロストリバーデルタが発見されたのは、本当に偶然だったのでしようか…??
信じるか、信じないかはあなた次第です…
レイジングスピリッツの攻略法
通常時のレイジングスピリッツ
レイジングスピリッツは、東京ディズニーシー屈指の人気アトラクション。オープン日には4時間待ちを記録、今でも待ち時間が60分を超えます。
しかしレイジングスピリッツは、パークの一番奥に位置するテーマポート・ロストリバーデルタにあります。
開園直後はエントランスに比較的近いアメリカンウォーターフロント*4や、メディテレーニアンハーバー*5の人気アトラクションへゲストが流れる傾向があるため、少ない待ち時間で乗れることも多いかも。
また、パレードの時間帯・閉園間際の時間帯でもかなり少ない待ち時間で乗れることが多いです。
現在はスマートフォンアプリでファストパスが取得できるようになり、ファストパスを取るために直接足を運ぶ必要がありません。
乗りたい優先順位が低い場合は、他のアトラクションを待つ間にファストパスをゲットするのも作戦かもしれません。
ちなみに、新たなテーマポート・ファンタジースプリングスには新たな入場ゲートが作られる予定だとか。それまではレイジングスピリッツの状況は変わらないかもしれませんね。
最後の無駄書き
私事ですが、大学の第二言語でスペイン語を履修した者としては、ロストリバーデルタは日本で数少ないスペイン語を読める場所なんです。(志摩スペイン村は行ったことないので…)
要望があればスペイン語講座も始めましょうか
- ¡ALTO!「止まれ!」
- ENTRADA PROHIBDA「立ち入り禁止」
ではまた会いましょう!Adios!