東京ディズニーシーのシンボルといったら何でしょう。プロメテウス火山?ホテルハイタワー?
いいえ、
ディズニーシー・アクアスフィアです。
ディズニーシーのシンボル
東京ディズニーシーのシンボル・アクアスフィアは、水(Aqua)と球体(Sphere)の造語です。
水の惑星・地球の表面70%を覆う海。
『冒険とイマジネーションの海』、東京ディズニーシーにはぴったりのシンボルです。
ですが、もともとは別の計画がありました。
日米の文化の違い
東京ディズニーリゾートは、ウォルト・ディズニー・カンパニーが運営していない世界唯一のディズニーパークです。
オリエンタルランドという日本の会社が、ディズニーキャラクターのライセンス*1を受けたり、アトラクションやショーの技術提供を受けたりして運営しているのです。
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そのため、東京ディズニーシーの建設主導権はウォルト・ディズニー・カンパニーにありました。
そこで提案されたシンボルは、『灯台』。
灯台は、祖国に帰ってきた船員たちを最初に出迎えるもの。アメリカでは、温かみのある「冒険の守り神」というイメージがあるのです。
ニューヨークにある『自由の女神像』も灯台。
右手に持つトーチが海を照らし、長い船旅を経てアメリカにやってきた移民たちの心の拠り所にもなったのです。
ところが、日本ではどうでしょう。
暗い夜の海を照らす、どことなく哀愁漂うイメージがあるのではないでしょうか。
当時のオリエンタルランド社長髙橋政知は、少なくともそう考えていたようです。
シンデレラ城に比べるとインパクトが薄いとさえ感じていました。
髙橋政知のイマジネーション
そこで髙橋政知が目をつけたのが、アメリカのフロリダにあるディズニーパークエプコットでした。
フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにあるエプコット。そのシンボルになっているのは、スペースシップ・アースというモニュメントです。
直径50m、重さ7.3tにもなるこの巨大な球体を見て、髙橋政知は『あれぐらいのアイコンが欲しい』と語ったとか。
ちなみにこのスペースシップ・アース、内部には人類のコミュニケーションの歴史を模したアトラクションが設置されています。
※現在大規模リハブ*2中
生命の星「地球」
夜は光が宝石箱のように輝いている。
雷もダイナミックで美しい。
暗黒の宇宙に美しく青い地球が浮かぶ姿は清清しさを感じさせ、壮大な気持ちになる。
日本人女性初の宇宙飛行士・向井千秋が、宇宙から見た地球についてのレポートです。
髙橋政知はこのレポートを目にして深く感動、『地球』こそが21世紀にふさわしいシンボルだと確信したのです。
割れる「海」
東京ディズニーシー計画を進めるうちに、日本とアメリカの文化・価値観のすれ違いが起きていました。
そこで、オリエンタルランドの社員5人をアメリカのディズニー本社に派遣。コンセプトチームに加わりました。
髙橋が、ディズニー本社へ真っ先に伝えるよう指示したのは、地球のイメージとして思い浮かべていた映画『十戒』のワンシーンでした。
『十戒』の劇中でモーセが海を割っているような、ダイナミックに噴き上がった水が地球を持ち上げているシンボルこそ髙橋のイメージだったのです。
水の惑星・地球
コンセプトチームは、1年8ヵ月に渡ってディズニー本社と話し合いを続け、ついに基本コンセプトが完成。
髙橋政知の思い描いた、「地球」のシンボルがついに形になったのです。
ただ、エプコットと同じ50m規模にはできず、8mに縮小されてしまったのは不満だったようですが…
アクアスフィア・プラザ
東京ディズニーシーのエントランスとして、入園前にゲストを出迎えるアクアスフィア・プラザ。
ここでもとりわけ目を引くアクアスフィアですが、今回は地面にも目を向けてみましょう。
アクアスフィアとプロメテウス火山
アクアスフィアからちょうど真西の方向にあるのが、プロメテウス火山です。
日没の時間には、差し込んだ夕日がアクアスフィアを照らします。太陽とプロメテウス火山、アクアスフィアが直線になるようにデザインされているのです。
The Moon
直径8mのアクアスフィアを囲むように、黄色*3と黒色*4のモザイクタイルで地面に直径2mほどの円が8つ配置されています。
この円の模様をよく見ると「月の満ち欠け」を表していることがわかります。
ところが、プロメテウス火山を太陽と見立てると、本来の月の満ち欠けと真逆になってしまいます。
では設計ミス?そんなことはありません。
夕日がアクアスフィアを照らす夕暮れ時。
太陽を背にして月のタイルの上に立つと、アクアスフィアが立っているタイルと同じ形に照らされるのです。
The Stars
東京ディズニーリゾートでは、電灯のデザインがテーマエリアによって違うこだわりよう。
アクアスフィア・プラザでは、星を模した形に。
この星の形は、ケプラー・ポアンソ立体と呼ばれる立体のひとつ。
天体物理学者ヨハネス・ケプラーと数学者ルイ・ポアンソに発見されたことからこの名がつきました。
天動説
アクアスフィア・プラザのマンホールは、独特な模様をしています。実はこれ、『天動説』を表したものなんです。
天動説とは、地球が宇宙の中心にあって、その周りを他の惑星が回っているという考え方です。 16世紀にニコラウス・コペルニクスが、太陽が宇宙の中心にあるとする地動説を提唱しました。
天文学と隠れミッキー
また、ポルト・パラディーゾに向かうトンネルの入り口に掲げられているのが、「アーミラリスフィア」。
いくつもの金属の輪からできていますが、それぞれ赤道・黄道・子午線・緯線などを表しています。
望遠鏡が発明されるまで、天文学者にとってアーミラリスフィアは、星の動きを理解するための重要な道具でした。
ロンドン,国立海洋博物館所蔵(18世紀作)
3面立体音響のためのシンフォニー
アクア・スフィアプラザで流れているのは、『3面立体音響のためのシンフォニー』。実は、昼と夜で流れている曲が違うんです。
アクアスフィア・プラザで流れる音楽を手掛けたのは冨田勲(1932〜2016)。
テレビ放送開始まもない頃から、手塚治虫原作アニメ『ジャングル大帝』、大河ドラマ第1作『花の生涯』の音楽を担当。
晩年にはボーカロイド・初音ミクとコラボしてコンサートを行うなど、意欲的に活動。東京オリンピック(2021)の開会式・閉会式でも曲が使われた、日本を代表する作曲家の1人です。
アクアスフィア・プラザ〜デイ
朝〜昼に流れているのは、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団による明るく壮大なオーケストラ。
冨田は、アクアスフィアの正面とその左右1つずつにオーケストラを配置して、3つのオーケストラが共演するような楽譜を書いたものの、計240人にもなる演奏者が集まらず、全て1つのオーケストラで演奏することになったのだとか。
当初、その指揮を取る予定だったのは、シャーマン兄弟*5の兄、リチャード・シャーマンでした。
ところが、シャーマン氏の体調不良によりスケジュールが合わず、結果的に冨田勲自身が指揮することになったのです。
アクアスフィア・プラザ〜ナイト
夜は、冨田勲本人による演奏のシンセサイザーが奏でる落ち着いた雰囲気の曲になっており、オープンから今まで、冒険を終えたゲストたちを暖かく送り出しているのです。