タワー・オブ・テラーは、アメリカンウォーターフロントと密接に関わっているアトラクションです。
Part1ではタワー・オブ・テラーにまつわる『ストーリー』に触れてきました。
ハイタワー3世失踪の謎を解き明かすためにも、アメリカンウォーターフロントを取り巻く『2人の大富豪の因縁』に焦点を当てていきます。
2人の実業家
20世紀初頭、1912年の大都会ニューヨーク。
豪華客船『S.S.コロンビア号』の大西洋横断の処女航海に向けて、港は祝祭ムードに包まれています。
このS.S.コロンビア号を所有しているのが、 『U.S.スチームシップカンパニー "U.S. STEAMSHIP COMPANY"』。
ハリソン・ハイタワー3世のライバルであった、コーネリアス・エンディコット3世の経営する海運会社です。
この2人のプロフィールを見ていきましょう。
ハリソン・ハイタワー3世
Harrrson Hightower Ⅲ
1835年、ニューヨーク生まれ。
ホテルハイタワーのオーナーにして実業家。莫大な資金によって様々な企業*1を買収、積極経営を行っていました。
冒険家としても有名であり、執事のアーチボルト・スメルディングと世界各地に出向いては美術品をコレクションしていました。
頭脳明晰ですが、傲慢で傍若無人な性格。
欲しいものは力づくでも手に入れる性格で、コレクションのためには強奪もいとわなかったとか…?
ところが、1900年1月1日に謎の失踪を遂げます。
ホテルハイタワーは閉鎖され、所有していた会社もほぼ全てエンディコット3世に買収されてしまいました。
コーネリアス・エンディコット3世
Cornelius Endicott III
1837年9月16日、ニューヨーク生まれ。
豪華客船S.S.コロンビア号を所有する『U.S.スチームシップカンパニー』の社長。
エンディコット3世の祖父、コーネリアス・エンディコット1世は(恐らくイギリスからの)移民。ドックサイドダイナーにはこのようなプレートが嵌められています。
私の祖父は他の者たちが失敗に終わったこの国に、ただ成功を掴むという野望ひとつ持ってやってきた。そして、彼は想像だにしないほどの成功を収めた。アメリカは実にチャンスにあふれた土地だ。
コーネリアス・エンディコット3世
1909年
ハイタワー3世の失踪以降、エンディコット3世はハイタワー3世の所有していた会社を次々に買収。
失踪事件の黒幕ではないか、と疑いの目を向けられています。
2人の因縁
お互いにライバル企業であり、祖父の代から対立していたエンディコット家とハイタワー家。
因縁のきっかけ
2人が犬猿の仲になったのは、小学生時代。
イギリスの寄宿学校スノッティングトン校に通っていたエンディコット3世(当時10歳)は、上級生のハイタワー3世(当時12歳)から酷いいじめを受けます。
ちなみに寄宿学校とは、親元を離れて寮生活を送りながら通う学校のこと。
現在でもアメリカの上流階級では、子供を寄宿学校に入れることが多いんだとか。
1847年でハイタワー3世は退学処分になりますが、エンディコット3世はこの一件からハイタワー3世を目の敵にするようになります。
ハイタワー3世の不正
その後、1865年にエンディコット3世は父から引き継いだ海運会社を『U.S.スチームシップカンパニー』と改名し、社長に就任します。
ところが、同時期にハイタワー3世も海運業に進出。2人は事業面でも激しく争いました。
ハイタワー3世は、自分の目的のためなら手段を選ばない性格。そこで、不正を行ってU.S.スチームシップカンパニーから仕事を奪っていきました。
これによって、U.S.スチームシップカンパニーの仕事は激減。激怒したエンディコット3世は、父の経営していた新聞社『ニューヨーク・グローブ通信"The New York Telegraph"』でハイタワー3世の不正を暴こうとしました。
ニューヨーク・グローブ通信
コーネリアス・エンディコット3世の父、エンディコット2世の設立した『ニューヨーク・グローブ通信』。その本社は、ブロードウェイ・ミュージックシアターの隣にあります。
ここではニューヨーク・グローブ通信だけではなく、『ニューヨーク・シッピング・ガゼッター "NewYork Shipping Gazetteer"』(船舶業界紙)も出版しているようです。
現在でも600もの言語が使われている人種のるつぼ・ニューヨーク。
ニューヨーク・グローブ通信では、フランス語・ドイツ語・イタリア語・ポルトガル語・スペイン語版も出版しているようです。
1897年2月2日。マンフレッド・ストラングという青年がエンディコット邸を訪れます。
両手にたくさんの資料を抱え、「ハイタワー三世の弱みを掴んだ!」と語る彼を、エンディコット3世は記者として雇います。
マンフレッド・ストラング
Manfred Strang
ニューヨーク・グローブ通信の記者。
1899年12月31日に開かれた、シリキ・ウトゥンドゥの披露会見にも参加。呪いについて何度も質問を続けたため、会見から追い出されてしまいます。
そこで、ウェイターに変装してホテルに潜入。
23時45分ごろ、エレベーターに乗り込むハイタワー3世を目撃します。
ハイタワー3世は、こともあろうかシリキ・ウトゥンドゥに葉巻を押しつけて「バカげた呪いとやらの正体を見てやろうではないか 」と言い放ったのです。
そのわずか15分後、ハイタワー3世は謎の失踪を遂げるのです。
ハイタワー3世の執事アーチボルト・スメルディングと共に、落下したエレベーターを確認したストラング。
そこに残されていたのはハイタワー3世の被っていたトルコ帽とシリキ・ウトゥンドゥのみ。
ストラングはホテルハイタワーを取り壊すべきと主張。ニューヨーク市保存協会の計画する見学ツアーの中止を訴えるのですが…
エンディコット3世の愛娘
エンディコット3世には7人の娘がいます。
そのなかでもニューヨーク市保存協会の会長を務めるなど、精力的な活動を行っているのが末娘ベアトリス・ローズ・エンディコットです。
ところが、エンディコット3世にとって悩みのタネだったのは、ベアトリスがハイタワー3世に憧れていたことでした。
ベアトリス・ローズ・エンディコット
Beatrice Rose Endicott
1883年4月15日生まれ。
U.S.スチームシップカンパニーの社長コーネリアス・エンディコット三世の七女(末っ子)。
1892年1月23日(8歳)。
ホテルハイタワーのグランドオープンパレードで、象に乗ったヒゲの男を見たことを日記に記しています。
1897年2月2日(13歳)。
エンディコット邸にマンフレッド・ストラングがやって来ます。彼の落とした雑誌『ハイタワー三世 真実の冒険物語*2』を秘密の屋根裏部屋で隠し読み、象に乗ったヒゲの男=ハイタワー3世に憧れを抱くようになります。
1899年12月31日(17歳)。
エンディコット邸の秘密の屋根裏の窓から、ホテルハイタワーのニューイヤーズ・イヴパーティーを見ていたベアトリス。
すると、突然ホテルが停電し最上階が緑色の光に包まれ、稲妻のようにホテルを貫いて落下するのを目撃します。
1900年1月3日(17歳)。
ハイタワー3世失踪事件のニュースで、ニューヨーク中が持ちきりになります。ベアトリスも大きなショックを受け、
私の大好きなハリソン・ハイタワー三世はどこへ行ってしまったの?
(中略)
彼がいなくなるなんて、わたしはこれからどうしたらいいの?もう、彼の新しい冒険物語を読むこともできなくなるのよ!
と日記に記しています。
ニューヨーク市保存協会
"New York City Preservation Society"
ベアトリス・ローズ・エンディコットによって設立された、ニューヨーク市の歴史的・芸術的価値のある建築物を保存する団体。
ホテルハイタワーのためだけに設立されたという噂がありますが…?
アーチーとの出会い
ベアトリスがこの団体を設立するきっかけになったのは、アーチーという謎の老人でした。
1908年10月21日。ベアトリスが公園でホテルハイタワーのスケッチをしていると、つぎはぎだらけのコートに汚い山高帽子を被った老人アーチーと出会います。
かつてホテルハイタワーでコック助手をしており、現在はブルックリンに住む姉のもとに身を寄せていると話すアーチー。
ホテルハイタワーへの想いを語り合い、意気投合したベアトリスは、アーチーからホテルハイタワーの詳しい話を聞くようになります。
父・エンディコット3世を説得
1911年4月15日。ベアトリスの誕生日パーティーの夕食後、ベアトリスは父コーネリアス(エンディコット3世)にS.S.コロンビア号就航に合わせたホテル開業を提案します。
ホテルハイタワーはニューヨーク港にほど近いこともあり、これを活用しない手はないと訴えたのです。
ところが、ホテルハイタワーの土地権利書は複数の人間が持っており、裁判で争われていたためどれが本物かわかりませんでした。
もし、実業家として名のあるエンディコット家が買い取る動きを見せた場合、ニセモノの権利書でも値段を釣り上げられるのは明らかです。
そこで、ベアトリスは小さな不動産屋を隠れ蓑にすることで、エンディコット家の名を出さずとも全ての土地権利書を安く買い取れると主張。
はじめは憎きホテルハイタワーの話題に怒り心頭のコーネリアスでしたが、「それでこそ私の娘だ」と愛娘を抱きしめて褒めました。
それがアーチーの入れ知恵とも知らずに…
父の裏切り
ベアトリスの父への提案は、ホテルハイタワーをエンディコット家で買収することで取り壊しを防ぐ思惑がありました。
ところが、この子にしてこの親。父コーネリアスも、水面下で娘を出し抜こうとします。
まず、1907年から建造中だった『S.S.コロンビア号』の内装マネージャーにベアトリスを任命。
ベアトリスをS.S.コロンビア号の内装や、祝賀会のプロジェクトで多忙にさせることで、ホテルハイタワーの買収や解体準備がバレないようにしたのです。
そしてコーネリアスはベアトリスに、ホテルハイタワーの権利書を購入できなかったと嘘をつきました。
ニューヨーク市保存協会設立へ
ところが1912年5月3日。ベアトリスは、父コーネリアスに嘘をつかれていたこと、秘密裏に進めていたホテルハイタワー解体計画を知ります。
親子ゲンカの末、泣きながら家を飛び出したベアトリスは、公園で一夜を過ごすことに。
翌5月4日。いつの間にか公園に来て、ベアトリスにコートを掛けていたアーチー。
ベアトリスは、父コーネリアスが
・ホテルハイタワーを買い取ったこと、
・ホテルハイタワーを解体しようとしていること、
・跡地に自らのホテルを建設予定であること
を相談し、解体計画を阻止する方法を話し合いました。
そこで出たアイデアが『ニューヨーク市保存協会』の設立。ベアトリスは友人のもとを訪れ、1日かけて支援者を集めます。
さらに、その日のうちにカールッチ・ビルの3階に事務所を借りることになりました。
中央に見える、赤いひさしの建物がカールッチビル。
そして、6月5日にはニューヨーク市議会の公認を受けて『ニューヨーク市保存協会』が正式に発足。
ホテルハイタワーの歴史的・芸術的価値が認められ、解体を免れることになったのです。
皮肉なことに同日、父コーネリアスはホテルハイタワーの解体と『エンディコットグランドホテル』の建設を発表したのですが、もちろん即日中止となりました。
ホテルハイタワー見学ツアー
ニューヨーク市の認可を得て、ホテルハイタワーを改修したベアトリス。 次に、ホテルの見学ツアーを計画します。しかし、ニューヨーク・グローブ通信のマンフレッド・ストラングが紙面で猛反対。
1912年8月20日
ベアトリスは『見学ツアー』の説明をするため、ストラングに会いに行きます。
1897年にベアトリスがストラングを応対したことがわかり、打ち解けるかと思いきや、ツアーに反対するストラングと、ツアー中止を拒否するベアトリス。
意見は平行線をたどります。妥協点として、ベアトリスとストラングの2人でホテルハイタワー見学ツアーの視察をすることになりました。
1912年8月22日
午後5時にストラングはベアトリスと落ち合い、ホテルハイタワーの見学ツアーが始まりました。
ハイタワー3世をベタ褒めするベアトリスに対して、何かにつけてハイタワー3世をディスるストラング。最悪の空気が漂います。
万が一にも、この2人と修学旅行の同グループになってしまったら胃薬が手放せない自由散策になるでしょう。
ロビーとプールを抜けて、書斎にやってきた2人。この部屋に置かれた蓄音器には、ハイタワー3世失踪前日の記者会見の様子が録音されています。
もちろん、ストラングの声も聞くことができます。
ベアトリスが足早に次の部屋へ向かったため、1人になったストラング。すると突然、断線しているはずの書斎の電話が鳴りだします。
恐る恐る受話器を取ると、
馬鹿なことをしでかしてくれたものだ。
シリキの呪いが始まる。
声の主は失踪したはずのハイタワー3世。原作*3でいえば、アナザー・ディメンションからの電話というやつです。
さらに、書斎に置かれていたはずのシリキ・ウトゥンドゥの姿が消えていました。
ストラングは慌ててベアトリスに追いつき、見学ツアーの中止を再三主張しましたが、ベアトリスは聞く耳をもちませんでした。
ハイタワー3世の隠し倉庫を探索する2人。ストラングが、アステカの石像*4のそばの床に、最近動かされたようなキズを見つけます。
調べてみると、ハシゴが隠し部屋につながっていました。
そこにはつい先程まで誰かがいたような生活感が残っており、汚れた食器や酒瓶の他に、なぜかハイタワー3世に関するあらゆる新聞記事、アーチーの着ていた服や執事アーチボルト・スメルディングの日記が。
アーチーの正体は、ハイタワー3世の執事アーチボルト・スメルディングだったのです。
2人は、最後にホテル最上階のハイタワー3世の部屋へ向かいます。そこにシリキ・ウトゥンドゥが現れましたが、命からがら逃げ出すことができました。
吊り橋効果で2人の距離も縮まったようですが…?
1912年9月4日
ベアトリスはホテルハイタワー見学ツアーを断行。ついにゲストを招待して見学ツアーが始まります。
ハイタワー3世が失踪した夜、何が起きたのか。
皆さんの目でお確かめください。
*1:国際会報配信エクスプレス・サービス(新聞社)、HHピリオディカル社(出版社)など
*2:HHピリオディカル社刊。1879年から出版されている冒険雑誌で、ハイタワー3世をヒーローとして描きイラスト付きで掲載。第1弾はチェスター・ファリントン・ウールブール著『暗黒を辿る旅 ムトゥンドゥ族からの敢然たる逃走』。
*3:タワー・オブ・テラーのモチーフとなっている"Twillight Zone『トワイライト・ゾーン』"
*4:秘密の倉庫の入り口近く、登り階段のそばにある愛欲の女神、トラゾルテオトル。欲望の保護者であり悔、告白を司る女神という。