1848年、米墨戦争*1によってアメリカの領土となったばかりのカリフォルニアで砂金が発見されました。その噂が広まり、12月には大統領によって公式発表されました。
翌1849年になると、西部アメリカに開拓者たち(=フォーティナイナー)が大量に押し寄せ、ゴールドラッシュが始まります。
ストーリー
1848年、『アメリカン川で砂金発見』。
そんな記事が地方新聞に掲載され、噂を聞きつけた開拓者たちがアメリカ西部に殺到。ゴールドラッシュの幕開けです。それでも金を見つけてアメリカンドリームを掴んだ者はごくわずか。
開拓者たちは、噂を頼りにビッグサンダー・マウンテンへと行き着きました。ここでは『ビッグサンダー・マイニングカンパニー』が設立され、金が採掘されていたのです。
ところが、地元のネイティヴ・アメリカンたちは「ビッグサンダー・マウンテンは、雷神の住む『聖なる山』だから人間は入ってはならない」と何度も忠告。
ところが、開拓者たちは聞く耳を持ちませんでした。
するとある日突然、奇妙な音と共に鉱山の全ての機械が停止する怪奇現象が発生。さらに、誰も運転席に乗っていない鉱山列車が突如暴走を始めたのでした。
アメリカ西部の金鉱
ビッグサンダー・マウンテンは、アメリカ西部に広がるの荒涼とした砂漠地帯が舞台。
ユタ州からアリゾナ州に広がるモニュメント・バレーをモチーフにしたとされています。
この赤茶けた岩山は、2億5000万年前にロッキー山脈から運ばれてきた土砂が積もり、風や川の流れによって何千万年もかけて削り取られていくことで今の姿になりました。
テーブル状の山をメサ、メサが更に削り取られて細長くなった山のことをビュートといいます。
ちなみに、このモニュメント・バレーはネイティヴ・アメリカンのナバホ族の聖地でもあり、西部劇*2を中心に数多くの映画のロケ地*3となってきました。
西部一の暴れん坊のルートを見ていきましょう。
駅舎
ビッグサンダー・マイニングカンパニーの駅舎。1880年代当時、金塊を採掘する鉱夫たちはここからトロッコに乗っていました。
原因不明の事故や、無人の鉱山列車の暴走の影響で、今となってはよほど勇気のある開拓者しか足を踏み入れていないようです。
無人の坑道
発車まもなく、左側ではネズミたちの目が光っています。31匹のネズミの瞬きは、怪しく開拓者たちを送り出します。
現在ペットとして人気の高い犬種 ラット・テリアは、実は鉱山でネズミ駆除をするために品種改良されたんだとか。
なんと、わずか7時間で2,500匹ものネズミを捕まえた記録も残っています。
鍾乳洞
出発した鉱山列車が坑道を抜けて鉱山に差し掛かると、右側には鍾乳洞が。
鍾乳石から滴る水滴が泉に波紋を作り、妖しく光る様子は神の存在を感じさせます。
坂を登り切ると、噴き出した地下水の滝が。この水分が石灰石を溶かして鍾乳洞が作り出したのかもしれません。
アメリカ西部・アリゾナ州の『カチュナー・キャバーンズ州立公園』では、荒野の地下に世界有数の鍾乳洞が広がっており、人気のスポットとなっています。
ナチュラル・アーチ・ブリッジ
吹き抜ける風の浸食で自然に作られた岩山のブリッジです。
ユタ州の『アーチーズ国立公園』では、2000以上もの砂岩のアーチを見ることができます。
かつてこの場所に海水が流れ込み、岩塩の地層が作られたことで、珍しい地形が生まれました。今も侵食によって削られ続けており、いつか崩れ去ってしまう光景なのです。
サボテン峡谷
ビッグサンダー・マウンテンの入り口でも見ることができる『キメンカク』(下部中央)、シューティングギャラリー前にある丸い『キンシャチ』(下部左)のようなサボテンが見えます。
西部劇で見覚えのあるような形をした右端の『サワロサボテン』は、アリゾナ州の『サワロ国立公園』など限られた地域にしか生えていないそうです。
オポッサム・ツリー
速度を上げた鉱山列車が通過するたび、オポッサムの子供が風圧でクルクルと回る様子は愛嬌がありますね。 ビッグサンダー・マウンテンには親2匹、子供2匹の計4匹のオポッサムが暮らしています。
ちなみに、オポッサムは南北アメリカ大陸に広く生息する哺乳類。カンガルーやコアラと同じく、お腹の袋の中で子供を育てる有袋類*4に属しています。
コヨーテ・キャニオン
コヨーテがいる峡谷です。遠吠えをしながら獲物を狙っています。 ビッグサンダー・マウンテンには3匹の群れを作って暮らしています。
コヨーテは、北アメリカ大陸に生息するオオカミに似た哺乳類です。ネイティヴ・アメリカンとの関係も深く、太陽をもたらした神と崇める部族もあるのだそう。
名前はCoyōtl(ナワトル語)からきています。
鉱夫の宿舎
金脈が掘り尽くされ、採掘量が減ってしまった1880年代のビッグサンダー・マウンテン。それでもこの地に残って採掘を続けている開拓者がいるようです。 洗濯物が干され、夜には明かりが灯り、鉱石を溶かす炉には煌々と炎が揺らめいています。耳をすませば鉱夫たちの話し声が聞こえてくるかも…?
ビッグホーンシープ・ビュート
鉱山列車を見つめるビッグホーンシープがいる岩棚。
ビッグホーンシープとは、西部アメリカの山岳地帯に生息する大型のヒツジです。オスの大きなツノは、ツノ以外の全ての骨よりも重いんだとか。
ビッグサンダー・マウンテンではオス・メス・子羊の家族3匹が暮らしています。天敵のコヨーテから逃げてきたのでしょうか。
スパイラル・ビュート
断層が作り出した急カーブを、鉱山列車は急旋回しながらスピードを上げていきます。
ヘッド・ノッカー・トンネル
日本語にすると「頭をぶつけるトンネル」です。岩山が頭上にかすめる場所を急降下しながらくぐっていきます。
崩れる坑道
メインビュートの落盤事故で線路が崩れてしまったようです。ゴロゴロと轟音が鳴り響き、ランプやバケツが揺れているところを見ると、まだ岩石の崩落が続いているようです。
鉱山列車の振動によるものなのか、はたまた超自然的な力によるものなのか…
おや、岩陰にキラリと光るものがあるような…?
メインビュート
ビッグサンダー・マウンテンのシンボル(一番高い山)です。高さが30.3メートルあります。
バットケーブ
コウモリの生息する洞窟に進入した鉱山列車。ビックリした無数のコウモリが飛び回っています。
ニューメキシコ州には、世界遺産に登録されている『カールズバッド洞窟群国立公園』という鍾乳洞があり、数多くのコウモリが暮らしています。
間欠泉
速度を上げた鉱山列車が恐竜の化石の下をくぐり、泉へ突っ込んでいきます。右側では間欠泉が水しぶきを上げています。
岩が白いのは、鉄分が熱水で変色しているため。
火山活動によって熱水は間欠泉として水しぶきをあげています。酸性を帯びた熱水泉の影響でしょうか、左の小屋が溶けています。
アイダホ州・モンタナ州・ワイオミング州にまたがる『イエローストーン国立公園』をモチーフにしています。ここでは200以上の間欠泉、1万以上の温泉が湧く世界初の国立公園であり、世界遺産第1号でもあります。
作業場
無事、発着場に戻ってきた鉱山列車。つい先ほどまで作業が続けられていたような雰囲気です。
生みの親トニー・バクスター
ウォルト・ディズニーが極秘に設立した会社、WEDエンタープライズ。ディズニーパークの開発を行うこの会社に、1970年トニー・バクスターという新入社員がやってきました。
メインストリートUSAでアイスを売る仕事からキャリアをスタートした新参イマジニアは、マジックキングダムで計画されていたアトラクション『" Western River Expedition"ウエスタンリバー探検旅行』のコンセプトアートから着想を得て、西部アメリカの高地を鉱山列車が走るジェットコースターを思いつきます。
イマジニアでもあり、ディズニーアニメ黎明期を支えたマーク・デイヴィスによるコンセプトアート。
しかし、1973年、カリブの海賊を建設するために、バクスターの企画はボツになってしまいます。
1974年にも、スペースマウンテン建設のため、企画は一時中断状態に。
ジェットコースターのアイデアは、トニー・バクスターがクルミの木で作ったおもちゃの列車の迷路がもとになっています。
模型の鉄道が高価だったために買ってもらえず、おはじきの列車を走らせていたのですが、1979年9月2日にオープンし、バクスターの夢は叶ったのです。
ディズニー・マジック
ウォルト・ディズニーの手掛けた最後のアトラクション、『カリブの海賊』。ウォルトは、WEDエンタープライズのイマジニアにこう言いました。
ゲストが一度に見られないほどのものを置きなさい。 そうすれば、ゲストは何度でもここに戻ってくるよ。
このウォルトの教えは、今でもディズニーテーマパークに息づいています。アトラクションに乗ってからはもちろん、乗るまでの待ち列にもたくさんのストーリーがあるのです。
さて、待ち時間も楽しくなるような、ディズニーがアトラクションに隠したストーリーの魔法をいくつかご紹介します。
トラクターより旅行!
ビッグサンダー・マウンテンの入り口には、スチームトラクターが置かれています。実際に使われていた1898年製の農業機具で、世界で数台しか現存していません。
なぜ、そんな貴重なものがここにあるのでしょうか。 もともとは、アメリカ本国カリフォルニアのディズニーランドのビッグサンダー・マウンテンに設置する予定でした。
イマジニアが持ち主に交渉したのですが、拒否。
その後、東京ディズニーランドのビッグサンダー・マウンテンのオープンに合わせて再交渉したところ、持ち主の妻が「トラクターより旅行に行きたい」と言ったため、譲り受けることになり東京へやってきたのです。
セドナ・サム
無人になっているビッグサンダー・マウンテンですが、釣りをしているおじいさんがいるのを知っていますか?
といっても、ビッグサンダー・マウンテンからは見ることができず、ウエスタンリバー鉄道からしか見ることができませんが…。
このおじいさんはセドナ・サムといいます。
なんと、むかしビッグサンダー・マウンテンで現場監督として働いていたそうなんです。
そばにいるのは愛犬ディガー。採掘中の岩崩れで生き埋めになってしまったサムを掘り起こして助けた相棒です。
別の線路?
ビッグサンダー・マウンテンで発掘に使われていたのは鉱山列車だけではありません。
"Distribution"
発行されていたファストパス。
他のアトラクションに設置されているファストパス発券所の英語表記は"FASTPASS TICKETING"と書かれているが、このアトラクションのみ"FASTPASS Distribution"と書かれている。
荒野一の暴れん坊
・旧アナウンス
やあ、皆さん!
走行中は顔や手を外に出したり、
立ち上がったりしないでください!
メガネや帽子なんかも飛ばされないよう、
はいはい、気を付けてくださいよ!
さぁ、西部一の暴れん坊
マイン・トレインの出発です!
発車前に流れるアナウンスは、富田耕生*5が担当しています。
旧アナウンスは、かなり西部開拓時代のべらんめぇな無法者という感じで独特でした。ところが、2012年ごろに中国語アナウンスを追加した際、新録されたアナウンスに変更されてしまいました。
・新アナウンス
さぁ、いいかい?
メガネや帽子など、飛ばされやすいものは
しっかりしまってね!
健康になる鉱山列車!?
ビッグサンダー・マウンテンがとある病気に効果があるのをご存知でしょうか?
ミシガン州立大学の研究によると、フロリダのビッグサンダー・マウンテンに60回乗ると、前の座席だと16.7%の尿路結石が移動、後の座席ではなんと63.9%の尿路結石が移動していました。
https://www.nytimes.com/2016/10/04/science/roller-coaster-kidney-stones.html
これにより、ジェットコースターが尿路結石の排出に効果があることが判明し、2018年のイグ・ノーベル賞を受賞しました。
世界のディズニーパーク
ビッグサンダー・マウンテンがあるのは、世界中の4つのディズニーパーク。
ディズニーランド(アナハイム)
1979年9月2日にオープンした、世界初のビッグサンダー・マウンテンです。
レインボーリッジ
アメリカ西部の"レインボーリッジ(虹の尾根)"という小さな炭鉱町が物語の舞台。
有名な観光名所"レインボーカバーンズ(虹の洞窟)"から名付けられたこの町は1869年に設立されました。
鉱山列車が通過するだけで、採掘会社もなかったレインボーリッジ。ところが1879年ビッグサンダー・マイニングカンパニーがやってます。急速に町は発展、最盛期には2,015人が暮らす炭鉱都市になったのです。
ところが、先住民ネイティヴ・アメリカンに伝わる超自然的な精霊が引き起こした災いによって、金の産出量が右肩下がり。いまや38人しか住んでいない寂れた町になってしまいました。
このパークでは、岩山がごつごつした印象を受け、他のパークとビッグサンダー・マウンテンのデザインが異なります。
モデルとなったのはユタ州のブライス・キャニオン国立公園。この独特な土柱はフードゥーと呼ばれ、風雨によって削られることで生み出された地形です。
かつてこの地に暮らしたネイティヴ・アメリカンのパイユート族は、この土柱を見て人が岩に変えられた姿だと語り継いだそうです。
マジックキングダム
1980年9月23日オープン。
ストーリーの大筋はアナハイムとさして変わりません。
タンブルウィード
こちらの舞台はアメリカ西部の町"タンブルウィード"。1880年にビッグサンダー・マイニング・カンパニーにより設立されました。
ところが、先住民ネイティヴ・アメリカンに伝わる超自然的な精霊によって町に旱魃がもたらされ、寂れた町になってしまいました。
ちなみに、タンブルウィードとは西部劇でよく見られる回転草のことです。
バーナバス・T・ブリオン
このパークには独自のバックグラウンドストーリーがあり、バーナバス・T・ブリオンなる人物がビッグサンダー・マイニング・カンパニーの社長を務めています。
あのハイタワー3世も名を連ねる"S.E.A"という秘密結社のメンバー、バーナバス・T・ブリオンが社長を務めるビッグサンダー・マイニング・カンパニーによって金が採掘されています。
バーナバス・T・ブリオンの友人でありS.E.A.のメンバー、ジェイソン・チャンドラーは金の採掘をやめるよう進言するのですが…?
東京ディズニーランド
1987年7月4日オープン。
ディズニーランドパリ
1992年4月12日、パークの開園時にオープン。
"サンダーメサ"という町が舞台になっており、ヘンリー・レイヴンウッド卿という実業家がサンダーメサ・マイニング・カンパニーを設立します。
ところが、ビッグサンダー・マウンテンは精霊サンダーバードの住む山。ネイティヴ・アメリカンたちの警告を無視して採掘を続けた結果、災いが起こり町は衰退してしまいます。
なお、レイヴンウッド卿の邸宅は呪われた廃墟"Phantom Manor"になっているとのことですが…
*1:第11代大統領、ジェームズ・ポークがメキシコ領であったネヴァダ・カリフォルニア・ニューメキシコやテキサス・オレゴンを獲得するためメキシコを挑発して1846年5月〜1848年2月2日まで繰り広げられた戦争。
*2:ジョン・フォード監督は『駅馬車』(1939)、『捜索者』(1956)といったジョン・ウェイン主演作をここで撮影し、好んで使った撮影ポイントも「ジョン・フォード・ポイント」として多くの観光客が訪れている。
*3:『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)、『バックトゥザ・フューチャー PART3』(1990)、『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014)などなど。